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▼トップガン マーヴェリック

この夏に話題になった映像作品といえば、「トップガン マーヴェリック」。
エンタメ業界のお客様が多い当社、私も一時期「もう観ました?」が挨拶代わりになっていました。

パンデミックの影響もあり実に35年ぶりの続編公開となりましたが、一作目当時の筆者は中学1年生。米海軍パイロットたちの青春模様や、戦闘機や計器のアップが繰り返される戦闘シーンに、中坊の自分は追いつくだけで精一杯。正直に言うと作品への没入感はいまいちでした…

そんな思い出もあり、本作の「マーヴェリック」も、友人が誘ってくれたので一応観ておくか、ぐらいで映画館に向かってみたのですが…

結果は「劇場で観て本当に良かった」と大感激。(←単純)その後も別の友人を誘って再鑑賞したり、知り合いに鑑賞券をプレゼントしたりと、ウザいぐらい周りにおすすめしてしまいました。

「マーヴェリック」が映画作品として優れた点はたくさんあります。VFXに頼らなかった撮影は本当に圧巻だし、政治色は排除して炎上リスクを下げているのもさすがです。

しかし私がもっとも熱くなったポイントは「前作イマイチ勢、前作未見勢にも分かりやすく楽しんでもらう」という課題に対して、内容を予想以上に練り上げてきたこと。

これにより10〜20代も「普通にすごく面白い」映画として観られるので、家族でリピートという現象まで起きたのでしょう。

トム・クルーズをはじめとした制作陣の矜持はもうあっぱれとしか言いようがありません。(どの立場から言ってるんだ笑)

▼ウ・ヨンウ弁護士は天才肌

そしていま、8月後半の「観ましたか?」作品はNetFlix『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』です。

自閉スペクトラム症の天才弁護士が主人公の韓国ドラマですが、現在Netflixでは、非英語ドラマのランキングで世界中でNo.1を記録しており「イカゲーム」以来のヒットとなっているそう。

私は韓流ドラマは実は少し苦手でした。たまたま観た作品の冒頭がどれも「金持ちと庶民」や「マジメな人と悪い人」などの対比構図が強くて、ちょっと苦手なジャンルというイメージになっていました。

しかし「ウ・ヨンウ」ではそのようなヒリヒリした構図がなく、韓国ドラマへの苦手意識が強かった私もすんなりと観てしまっています。

一話完結式で、いいところで次回に引っ張るような演出もないので、「今日は時間もあるし一話見よう」、という自分ペースの視聴ができます。

「みんな大好き」と「自分は好き」

さて、取り上げた2作品に共通しているのは、どちらも「誰もが楽しめることを目指した王道作品」であることです。

最近ではVFXの進化、外出自粛期間中のサブスクチャンネル競争の激化により、「観たことがないタイプの作品」が次々に誕生しています。

映画界にはハイ・コンセプト、という用語があります。80年代から巨大化が加速したハリウッドでは、大作映画の企画提案で、スタジオ重役たちからGOをもらうために「ヒットする面白さが、一言で伝わるコンセプト」が重要になっていきます。

「ニューヨークでお化け退治」「殉職警官、ロボットになる」「人類救済のために宇宙に送られる炭鉱夫たち」などなど。

70年代のような、一言では言い表せない深いテーマの監督主導の作品から、新規性があり、聞いただけでヒットしそうな企画が絶え間なく求められ、多くの良作が(あるいはそうでない作品も)生まれました。

「トップ・ガン」の一作目もまさにその流れで誕生し、ヒット作となったのです。

さて現在のエンタメ界。サブスク普及によりハイ・コンセプト戦国時代ですが、80年代のハリウッドとはまた違った流れが見えてきます。

観客情報収集マーケティングが高度になり、さらに細分化された層へとファン形成を狙って、次々に新規性のある作品が投入されています。

好きな人には好かれる、そうでない人は置いていくという、多極化されニッチな市場での企画がどんどん誕生しています。

コミック原作作品も増えていますが、これこそ興味がなければ観ようとしない企画。
マーベル映画、鬼滅の刃、ワンピースなど、ヒット作と呼ばれる映画も、実は「そもそも観る気もない」層の方が多いのが現実なのです。

サブスクチャンネルのトップ画面には、シリーズドラマを観終わる前にサムネ一覧に「あなたへのおすすめ」の新作が次々と表示されます。検索ブラウザでもSNSでもちょっと見ただけのマイナーな情報が次々に表示される現象がありますよね。

自分に向けられた情報に囲まれ過ぎてしまう現象を「フィルターバブル」「エコーチェンバー」とも言います。
今や人が情報を選ぶのではなく、情報が人を選んでいる時代になったのです。

さすがにちょっと供給過剰で、みんな疲れ気味なのではないでしょうか。

まっすぐな主人公とその仲間たち

そんな状況だからこそ「シンプルでストレート、そして誰もが楽しめる」作品が、大衆のハートを掴み始めたのでしょう。「マーヴェリック」「ウ・ヨンウ」に共通して言えるのは、ストーリー全体の流れは単純で、むしろファンタジー(架空の)作品なのです。

ただし「突き抜けた才能と、周りを明るくする性格だが、生きにくさも抱えている」という、今この時期だからこそ共感したい主人公像が設定されてるところがポイントです。

またその仲間(チーム)や、作中登人物には極端に味を付けらたキャラクター像がいません。本来は「キャラ立ち」は娯楽作に重要な要素ですが、例えば現実社会で初めて会った人が、あまりに演技がかっていたらどうでしょうか??
心がざわつきますよね笑

このように登場人物のキャラ立ちを抑えることで、観客は主人公の行動や成長により集中できて、物語に深く没入できる効果があります。

これは一見簡単な選択に見えますが、あえて定番の味付けを封印することは、かなり勇気がいったと思います。

娯楽作の次のブームは?

さて娯楽作品には、数年ごとにその時代を象徴するような特大ヒット作が生まれます。大衆みんなの心を掴む王道作品や、まだ誰も見たことのなかった作品。これから大型予算映画でも、逆境に正面から立ち向かう正当な娯楽作品が、増えていきそうな予感がします。

「マーヴェリック」の劇中で印象的なセリフがあります。

頑なに飛行機乗りにこだわるマーヴェリックに、上官はもうすぐドローンなどでパイロットは不要になると皮肉を告げます。しかし彼が去り際に残した一言は

「But not today.」(でもそれは今日ではありません)。



逆境を乗り越える。今日を精一杯過ごせば、きっとこの先は明るい。

そんなストレートな主題作品のブームが、もうしばらく続いてほしいです、

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