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業界の新たなる巨頭

デザイン制作ツールの普及により、クリエイティブ活動はより身近なものになりました。プロ仕様としてはAdobeのソフトが代表的で、業界により様々な目的に応じたサービスツールが存在しています。
しかしそれらを使いこなすためには、まず「デザイン力」という設計のような力が必要で、これがなかなか簡単ではありませんでした。ツール使って頑張ってチラシ作ったのに、プロと比べたらごちゃごちゃしていて伝わりにくい、、なんてよくありますよね。
そんな課題を解決してしまうデザイン支援のサービスが最近では人気になってきています。なかでも内容の充実っぷりがが一頭抜けているのは「Canva」です。

Canva_top
分かりやすく、おしゃれな設計により圧倒的に「親しみやすい」サービスのCanva

私も存在を知ったのは一昨年だったのですが、いざ触れてみたらそのサービスに驚きました。おしゃれで有能なデザインがアプリをダウンロードすることなくブラウザ上で簡単にできてしまうのです。
職業デザイナーにとってはおそろしいサービスだなと思っていたのですが、案の上あっという間に世界で勢いのあるIT企業の一つに成長しました。ほんとすごい。。

Canvaのいいところ

▼「目的」までのフォロー力

Canvaでは、まずデザインの目的に沿ったテンプレート選びから始めるのですが、このバリエーションが豊富です。チラシ、ポスターなどの印刷物、Web用素材、SNS素材、さらになんと動画まで作れてしまうのです。
また印刷物では作成メニューの最後に印刷フォームがあり、枚数や紙を選択すると印刷屋から印刷が届く仕組みになっています。さらにはイベントのお知らせなどのWeb公開ならCanvaのサービス内でできてしまいます。(ただしURLは「canva〜」になります)つまり、ペライチやWIXなどの簡易HP作成サービスを利用しなくても、簡単な告知などならここでできてしまいます。
デザインは本来は「目的」ではなく、あくまで伝えたいことへの「手段」です。どのようにして伝えるかという目的のゴールまでサービス内でフォローしているところが素晴らしいです。

▲印刷用のフォームも注文〜納品へとシームレス。

▼とにかくとっかかりやすい

デザインをいざ始めようとすると「どうしたらいいのか?」「センスに自信がない」などの感情の壁が立ちはだかりませんか?私たちはスマホやPCを通じて多様化したメディアから、たくさんのセンスのいいデザインを無限に浴びています。また気軽に始められるデザインツールも溢れているからこそ、選択に迷ってしまうのです。
また、初めからプロに依頼するという手もあります。しかしこの「誰かにお願いする」という行為は腰が重いもの。依頼と確認の往復が多すぎてコスパが下がっているケースも多々あります。
この点Canvaでは最初に「何をデザインしますか?」というフローから始まります。選んでいけばデザインが完成する。そして修正が頻繁に発生しても自分でできる。このように「とっかかりやすく、とりあえず自分できる」という、多くの人が求めていた心理需要を見事に汲み取っています。

▲プレゼン資料フォーマットも豊富

▼チームが組みやすい

今やリモートワークがの普及により、組織のあり方だけでなく、指示の出し方や確認・管理の仕方など「新しい仕事の進め方」が模索されています。デザイン業務も本来なら指示者と制作者に分かれて(あるいは一体となって)いましたが、この垣根ももっと開かれたものになりつつあります。Adobeのデザイン制作ソフトにもクラウド管理で複数人が参加できるサービス機能はありますが、サービスやソフトをある程度使えることが前提になっています。
Canvaは共同プロジェクト向けの調整がより簡単に、かつスケジュール管理など便利な機能が分かりやすく操作できるようになっています。

▲チーム編成もgoogleなどの共有とシステムと一緒で使いやすい。

Creative Cloud Expressはどう?

ではCanva同様のサービスは存在するのかというと、Adobeから同様のサービスを昨年末にリリースされています。Creative Cloud Expressです。

こちらもCanvaと発想は同じで、ブラウザ上で作業ができるため、デザインがサクサクできます。ちなみにこの記事のヘッダー画像もCreative Cloud Expressで作ってみました。

▼日本人好みのテンプレートが多い

Creative Cloud Expressは、後発のサービスのためAdobeならではの良さが際立っています。中でもデザインテーマのテンプレートがCanvaにくらべ、日本人が手掛けたであろうフォーマットが豊富です。
これはAdobeの歴史とAdobe Stockからの画像とフォントの連携が成せる業です。例えばこの記事のヘッダー画像も「比較」というワードから検索してテンプレートを探したものですが、通常の感覚で使いやすいものが方でした。Canvaでも同様の手段で試しましたが、こちらは日本人より海外向けなデザインが多く、シンプルなデザインは全くヒットしませんでした。

▲Canvaよりも、日本人にしっくりくるテンプレが豊富。

▼「Adobeならでは」の功罪も

Good!な点。

Canvaと比較すると、いい意味でも反対の意味でもAdobeらしさのある後発サービスと言えます。
そもそもAdobeはソフトのパッケージ販売からサブスク課金という仕組みを10年前に確立し、クラウドサービスの先駆者です。もしIllustratorやPremiere ProのようなAdobeソフトをすでに、Creative Cloudを通じて使っているなら、このサービスはすぐに有料プランで使うことが可能です。(一部限定プランの場合は除く)また逆に、Adobeのクラウドサービスに触れてみたかったユーザーには、エントリーとしてここから始めてみるのも良いと思います。

Hmm…な点。

しかし、デザインがほぼ未経験の人がCanvaと比較した場合には、この「Adobeらしさ」こそが壁になることも。
まずなんといっても、サービス名が長い!! Adobeのサービスとソフトって大量にあり、また基本的に名前が覚えにくいです。特にCreative Cloud Expressは、よくある単語の組み合わせで文字数も多く、人に教えようとした時に思い出せないレベルです。
また、「新規プロジェクトを作成」「ブランドの作成」などから始まるフローのタイトルは、Canvaの「何をデザインしますか?」と比べるとデザイン初心者にはもう一つです。しかしここら辺のCXまで変えてしまうと、他のサービスとの整合性が合わなくなりすぎるため、しょうがないところではあるのでしょう。

▲基本用語はAdobeのサービスと同じ。ゆえに斬新な機能もデザイン初心者には分かりにくい。

▼最後のフォローはCanvaに軍配

これも結論から言えば、今のAdobeに難しいことだと思われます。具体的に言うと、例えば印刷の発注〜納品といった機能がまだありません。Adobeのデザインデータは今や多くのプラットフォームにとって「納品物」という業界統一仕様になっています。Canvaは様々な業界にしがらみがなかったために斬新な供給に向けたタッグが可能だったと考えますが、Adobeが最終サービスまでインフラを整えようとするには障壁が高いイメージがあります。やはりデータ作成から送出までが現状では限界だと思います。

▲デザイン完了後はファイルの書き出しか、一部のSNS送信、メールなどのリンク設定のみ。

デザイン会社から見ると?

さて、最後にデザイン会社の立場から双方のサービスを使ってみてどう感じたかまとめます。

▼CanvaとCreative Cloud Expressの比較

とっつきやすい、親切、流行的という意味ではCanvaが良いです。また、少しデザインを始めていて、間違いなく安定感のあるレイアウトや、テーマなどを重視するならCreative Cloud Expressが良いと思います。Canvaのテーマは良い意味で世界的、逆に見ると海外っぽいものが多いです。ただし本来は良いデザイン、おしゃれなデザインに定義はありません。これは日本で仕事をしてきたデザイナーの固定概念とも言えます。
また両サービスともに、本当に細かい部分までの仕上げには限界があるように感じますが、これも「誰もが良いデザインを目的別に仕上げることが可能」という命題がある以上は当たり前。またこれらのイマイチな点はどんどんアップデートされていくと思います。

▼じゃあすでにデザインを仕事にしている人は?

プロとしてデザインに携わっているなら、触れてみよう

触れてみるべき理由は単純です。プロには必要ない、初心者向け、と決め込むのはダサいからです。
あらゆる市場ごとに商品やサービスは、生まれたり衰退しながら新陳代謝を繰り返します。そしてこれら市場には「求める人」がいて成立しています。身近で盛り上がっているサービスを見て見ぬふりをするより、なぜ人気なのかを実感することで、得られることのメリットほうが大きいと感じます。

プロにも使い勝手は良い

デザインを仕事にしていればこそ、デザインの方向性やレイアウト、フォント選びなどの初動の考案にかける時間が短くて損をすることはありません。少なくともこれだけデザインフォームが揃っているのだから、参考にするだけでも、デザインスキルの上達に繋がります。

さらに先のプロジェクトに取り組める見込みも

筆者は、顧客に積極的にこれらのサービスを紹介しています。一見するとデザイン側としての受注を手放すような行為に映るかもしれません。しかし顧客側で「この程度は自分たちでやる」という仕組みができることで、元来の関係性とは異なるプロジェクトチームが成立します。デザインの仕事には元来、発注者側と受注側の提出と確認という繰り返しの作業がありますが、これらの労力が軽減されることで、その先にある課題に取り組みやすくなると実感できます。

ノンデザイナー市場という考え方

最近良く聞かれる「ノンデザイナー」という言葉ですが、文字通りに職業デザイナーでないデザインをする人を指します。市場に存在するニーズ(ウォンツ)を顕在化した言葉であり、個人的には良い発見だと思います。
しかし同時に職業デザイナーから「ノンデザイナー」という言葉で自分以外の人たちを指すことには注意が必要です。職人か職人でないか、料理人か一般人の料理好きかという、あらゆるプロか否かという部分の区別に大きな意味はなくなってきているからです。区別に意味があるのではなく、その先にある目的こそが答え。業界に携わっているなら常にその求められていることを感じていないといけないな、と考えています。

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